「助けると思って……」 [あたまにくること]
4月の中頃の話である。
夫も夫の母(お母ちゃん)もいないときに電話があった。
若い女性で、はきはきとした口調である。
露店で元気にイカ焼きを売っているようなお姉ちゃん風である。
以下、私との間でこのような会話が交わされた。
相手「北海道の〇〇水産のもので、以前の顧客名簿からお電話させてもらっています。」
相手「前に北海道にいらしたときにうちで買ってくださったと思います。
これまで何の連絡もしなくてご無沙汰で申し訳なかったです。
それなのに、突然、お電話してすみません。」
私は、「お母ちゃんが北海道に行ったとき、そういえば何か送ってきたよな?」
と思い出していた。そのお店からだろうと思っていた。
相手「実はコロナの影響で、旅館などに卸していた蟹が売れなくて困っているのです。」
私 「そうでしょうね、それは大変ですね。お察しします。」
と、相手は自分が置かれた苦境を述べ続け、私は心から同情していた。
そんなやりとりの後、
相手「そこで、以前うちで買ってもらったお客様にお電話をして、
本当にご無沙汰していたのに申し訳ないのですが、
蟹を買ってもらえないかどうか、お尋ねしているのです。」
私 「それは、大変ですねえ。」
相手「とても良い蟹なので、高級料亭などに卸す蟹なんですけど、
捨てるのもかわいそうなんで助けると思って……。」
私 「(これは支援が必要かもなと思って)それで、おいくらなんですか?」
相手「本当なら四万円近くする品なんですけれど、一万九千円でお分けしたいんです。」
私 「(人助けとはいえ)え~!蟹に二万円!それはちょっと~。」
それでも、大量の蟹を囲んでいる食卓を想像しなかったわけではない。
でも、いくら何でも二万円の蟹……「買いましょう」と言えない私に、
相手「そうですよね。でも、北海道の特産物をおまけにつけますから。」
私 「ハア……」
相手「ホッケとか、松前漬けとか良い品があるんですよ。」
何だか心がザワザワした。
私 「……私ね、仕事を辞めて、まだ年金も出てないし、自由になるお金持ってないのよ。
だから、夫に相談しないといけないの。相談したら、どこに電話すればいいの?」
相手「北海道の〇〇水産で、電話番号は……。夜八時くらいまではいますので、
よろしくお願いします。」
私 「えっと、すみませんが、誰の名前で電話してきた?」
相手「〇〇〇〇さんです。」
私は、思わず叫んでいた。
「それ、10年前に死んだじいちゃんだわ。」
そして、心の中で叫んだ。
「北海道に行ったのはお母ちゃんなのよね。」
相手は、「本当にご無沙汰でご無沙汰で……。よろしくよろしく……。」
と言いながら、電話を切った。
すぐに北海道の〇〇水産をネットで調べてみたけれど、そんな会社はなかった。
「カニ」をキーワードで続けて調べていたら、消費者庁からの警告文書に出会った。
「カニカニ詐欺」……。
私は当然連絡はしなかったし、再び電話がかかってくることもなかった。
よくある手口とわかった後、私はLINEで夫にいきさつを伝えた。
夫はその日、ちょっとした仕事に出ていたのだが、
仕事の合間に一緒にいたAさんとBさんにその話をしたら、
Aさんも同じような電話がかかったという。
しかし、「二人暮らしなのでそんなに要らない。」と断ったそうだ。
Bさんについては後日談がある。
夫からその話を聞いた日、家に帰ったら、すでにお父さんが契約していたということだった。
お父さんは本当に「よい人」であると、私たちはよく知っている。
Bさんは言った。
「泣き落としにあった人もいるんだって。」
何日か後、Bさんにどんなものが届いたか聞く機会があった。
確かに蟹とおまけの海産物が届いたが、
二万円という金額に見合うかどうかは微妙だったという。
蟹を届けに来た宅急便のお兄ちゃんが、
「おいちゃんとこも買ったんですね。この辺りに5、6軒、同じのを配達しましたよ。」
疑うことなく人助けをしようとした、誠に善良な人たちの中に、
私は入り損ねた。
夫も夫の母(お母ちゃん)もいないときに電話があった。
若い女性で、はきはきとした口調である。
露店で元気にイカ焼きを売っているようなお姉ちゃん風である。
以下、私との間でこのような会話が交わされた。
相手「北海道の〇〇水産のもので、以前の顧客名簿からお電話させてもらっています。」
相手「前に北海道にいらしたときにうちで買ってくださったと思います。
これまで何の連絡もしなくてご無沙汰で申し訳なかったです。
それなのに、突然、お電話してすみません。」
私は、「お母ちゃんが北海道に行ったとき、そういえば何か送ってきたよな?」
と思い出していた。そのお店からだろうと思っていた。
相手「実はコロナの影響で、旅館などに卸していた蟹が売れなくて困っているのです。」
私 「そうでしょうね、それは大変ですね。お察しします。」
と、相手は自分が置かれた苦境を述べ続け、私は心から同情していた。
そんなやりとりの後、
相手「そこで、以前うちで買ってもらったお客様にお電話をして、
本当にご無沙汰していたのに申し訳ないのですが、
蟹を買ってもらえないかどうか、お尋ねしているのです。」
私 「それは、大変ですねえ。」
相手「とても良い蟹なので、高級料亭などに卸す蟹なんですけど、
捨てるのもかわいそうなんで助けると思って……。」
私 「(これは支援が必要かもなと思って)それで、おいくらなんですか?」
相手「本当なら四万円近くする品なんですけれど、一万九千円でお分けしたいんです。」
私 「(人助けとはいえ)え~!蟹に二万円!それはちょっと~。」
それでも、大量の蟹を囲んでいる食卓を想像しなかったわけではない。
でも、いくら何でも二万円の蟹……「買いましょう」と言えない私に、
相手「そうですよね。でも、北海道の特産物をおまけにつけますから。」
私 「ハア……」
相手「ホッケとか、松前漬けとか良い品があるんですよ。」
何だか心がザワザワした。
私 「……私ね、仕事を辞めて、まだ年金も出てないし、自由になるお金持ってないのよ。
だから、夫に相談しないといけないの。相談したら、どこに電話すればいいの?」
相手「北海道の〇〇水産で、電話番号は……。夜八時くらいまではいますので、
よろしくお願いします。」
私 「えっと、すみませんが、誰の名前で電話してきた?」
相手「〇〇〇〇さんです。」
私は、思わず叫んでいた。
「それ、10年前に死んだじいちゃんだわ。」
そして、心の中で叫んだ。
「北海道に行ったのはお母ちゃんなのよね。」
相手は、「本当にご無沙汰でご無沙汰で……。よろしくよろしく……。」
と言いながら、電話を切った。
すぐに北海道の〇〇水産をネットで調べてみたけれど、そんな会社はなかった。
「カニ」をキーワードで続けて調べていたら、消費者庁からの警告文書に出会った。
「カニカニ詐欺」……。
私は当然連絡はしなかったし、再び電話がかかってくることもなかった。
よくある手口とわかった後、私はLINEで夫にいきさつを伝えた。
夫はその日、ちょっとした仕事に出ていたのだが、
仕事の合間に一緒にいたAさんとBさんにその話をしたら、
Aさんも同じような電話がかかったという。
しかし、「二人暮らしなのでそんなに要らない。」と断ったそうだ。
Bさんについては後日談がある。
夫からその話を聞いた日、家に帰ったら、すでにお父さんが契約していたということだった。
お父さんは本当に「よい人」であると、私たちはよく知っている。
Bさんは言った。
「泣き落としにあった人もいるんだって。」
何日か後、Bさんにどんなものが届いたか聞く機会があった。
確かに蟹とおまけの海産物が届いたが、
二万円という金額に見合うかどうかは微妙だったという。
蟹を届けに来た宅急便のお兄ちゃんが、
「おいちゃんとこも買ったんですね。この辺りに5、6軒、同じのを配達しましたよ。」
疑うことなく人助けをしようとした、誠に善良な人たちの中に、
私は入り損ねた。
2021-05-08 21:06
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コメント(2)
善良な市民になれないので電話での販売・勧誘はすべてお断りしてます。
欲しいものは自分で探して買うのが楽しみなので押し売りはちょっとねぇ(^_^;)
by ケース家 (2021-05-09 09:10)
>ケース家様
私も電話での販売・勧誘はお断りする方なんですが、
今回は話に乗せられそうでした。
「あたまにくるの」は、
実際にこの危機を何とかしようとしている人が多大な迷惑を被っていること。
そして、わが町のたくさんの「よい人の優しい気持ち」が「利用」されたことです。
何が「本当」か見極めるのが難しい……イヤな気分になりました。
今回のことに限ったことではないですが。
by ちはやママ (2021-05-09 11:31)