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海うさぎ~宮部みゆき「孤宿の人」 [本]

福岡の病院まで一泊二日の健康診断に行ってきた。


一日目の検査の合間に読んだ宮部みゆきの「泣き童子」が面白かったので、
書店で他の作品を求めることにした。


「孤宿の人」……。

ぱらりとめくって
「海うさぎ」という言葉につかまった。


……夜明けの海に、うさぎが飛んでいる。


このようにして始まる物語の舞台は讃岐国・丸海藩。


これだけで上下巻買ってしまった。



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二日目の検査の合間に夢中になって読んで、
帰りの列車の中でもむさぼるように読んで、
ふるさとの駅に帰り着く直前に読み上げた。

最後は涙がでそうになるので、
列車の中では恥ずかしく
あくびをするふりをして誤魔化した。

久々に本に夢中になる時間を得て、
心地よい感動に浸ることができた。



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「海うさぎ」という言葉につかまったのは、
ヨットをしているせいだと思う。



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ヨットを始めるまで
白波が立つ海面を「うさぎがとんでいる」と表現するとは知らなかった。



「ほう、見てごらんなさい。風はこんなに静かなのに、海には白い小さな波が、
たくさん立ち騒いでいるでしょう。ああいうとき、この土地の者は
〝うさぎが飛んでいる〟というのよ。」


小説の最初の方で琴江さまが
薄幸の少女「ほう」に語って聞かせる。



小さな白波が立つ海面を
「うさぎがとんでいる」と表現するのは
瀬戸内だけなのだろうか。
また、もっと別な状況を「うさぎがとぶ」と表現することがあるだろうか。



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2012年、私が初めて参加した宇和島のレースは、
けっこう荒れた海だった。

2014年の新門司のレース後、
後ろからの風に乗って白波の立つ中を別府まで帰ってきた。

2015年の2月のポイントレースもけっこう怖かった。

このときの白波は、「うさぎ」というカワイイ状況じゃなかった。


別府湾を見下ろす峠に来て
「うさぎ」がいっぱい見えると
「出たくない。」という私と「いい風じゃないか。」という夫との間で
ちょっとだけもめる。



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最近は海に出る時間も全くとれないけれど
海に近い小説を読んで
海うさぎの写真を探して
ちょっとだけ不満が解消した。




小説の最後。


「青く凪いだ丸海の海原は、鏡のように平らかに穏やかに、
秋の日差しの下で憩っている。
ほうの挨拶に応えて、おはよう、ほうと返すように、
ちらり、ちらりと白うさぎが飛んだ。」

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「ヨット」が出てくる児童文学「白いイルカの浜辺」 [本]

久々にヨットが出てくる小説を読んだ。

イギリスの作家ジル・ルイス作「白いイルカの浜辺」。

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モアナ号というヨットの持ち主は
母を亡くした少女とその父。


イルカとイルカのいる海を守ろうとする
とってもたくましい少女カラと
身体に障害を持ちながらも
すばらしいヨットマンに成長していく相棒フィリクスという少年。
この二人の活躍が語られる。


圧巻は時化た海にモアナ号で乗り出した友達を救うために
二人が小さいヨットで海に飛び出していくところ。
(私が小説家だったら、こんな海に子どもを絶対行かせない……たとえ架空の世界でも!)

……


「うねる波がよせては、岸壁にあたってくだける。
私は、ヨットの船体をゆさぶる波の力をひしひしと感じていた。
……
モアナ号は帆を大きく広げているせいで、
海面すれすれまでかたむいていた。

フィリクスが帆をちぢめたが、
それでも船体はかたむき、
私は身体を外にそらせてバランスをとらなくてはならない。
このヨットには長い垂下竜骨があるので、
転覆する心配はあまりなさそうだ。
私はフィリクスを見やったが、
きびしい顔で集中している。」


……


訳した人はヨットに乗っている人なのかな?
もしヨットを知らなければ、
訳をつけるのは大変だっただろうな……なんて思ってしまった。


たしかに……大分のオキテ [本]

寒いので動けず、こんな本を読んでました。

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「オキテ」と言うよりは「知っておけば楽しい大分の話題」というところでしょうか。


その中でうなずけるのをいくつか紹介。


オキテ5「公衆浴場ルールが厳格。」

これは別府エリア限定。別府温泉のルールですね。

どんなに熱くても水を足してはいけない。

そうです、そうです。
熱いんですが、がまんしないと。
これはよーく知ってます。
度々別府に行ってると慣れてくるんですけれどね。

湯船の縁に座って、足だけ温泉に浸ける行為も禁止。

そういえば見たことないですね。
言われて気づきました。

ワタクシ流にもうひとつ付け加えるなら、
「ここが別府でいちばんいい温泉。」
という地元共同浴場のおばちゃんたちの言葉を尊重しなくてはならない。



オキテ9「読めない地名がたくさんある。」


読めない地名は大分に限ったことではないとは思うけどな。

大分県民であるか否かの一番簡単なテストは「安心院」を読ませるとわかるとか。
確かにそれはそうかも。
県名も「大分」で「おおいた」ですからねえ。
「佐伯」は「さいき」。これを読み間違えると佐伯の人は不機嫌になるらしいです。


オキテ94「高崎山とうみたまごを別府市と思っている人が県内でもけっこう多い。」

県外のみなさんはご存じでした?
私は知ってましたけれど、私の「別府に帰ってきた」マークは高崎山なんですよね~。



まあ、なんでこれが「オキテ」なの?と思われることもけっこうありますが、
「意外な日本一」など「へえ……」と改めて知ったこともいくつかあって、
酒の肴にはなりそうです。


ちなみに大分の男性は自分のことを「九州男児」とは言わないんだとか。
ほんと?



せつなくて読めない 「ことり」小川洋子 [本]

この前の日曜日、夫を待つ間に書店で買った文庫本。

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この時期 鳥ブログになってしまう私としては
タイトルに惹かれたのであろう。


人間の言葉は話せないけれど、小鳥のさえずりを理解する兄と、
兄の言葉を唯一わかる弟。
ひっそりと静かな物語だが、その世界にどんどん引き込まれていった。


こんな場面があった。
兄と弟の会話である。

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「今日、ツグミがきたよ」
「じゃあ、もう冬だ」
「うん」
「枝にリンゴ、刺しておいたの?」
「でもツグミはリンゴを食べない」
「どうして?」
「遠慮して」
「へえ」
「先にヒヨドリがいたから」
「仲が悪いの?」
「ヒヨドリは賑やかで、頭がボサボサして、腕白だ。
 ツグミは圧倒されて、地面で土を掘り返してた」
「喧嘩はしないんだね」
「しない。土の中の虫を探すだけ。いじけてもいないし、めそめそもしていない。
 ただ遠慮しているだけ」
「へえ、そうなのか……」
「でも、ヒヨドリがこぼしたリンゴの屑は食べるよ」

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……どこでも同じ鳥の風景なんだな。作者もリンゴを庭に置いてるんだろうな。




わが家の庭で
この場面のツグミの役を担っているのがシロハラだ。
ヒヨドリのいないときをねらって遠慮がちにやってくる。


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道路沿いのツツジの植え込みの下に長い時間じっとしていることもある。

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最近ツグミは畑の中をよく歩いているが、
やはりリンゴを食べには来ない。



……さて、物語では兄が逝き、「小鳥のおじさん」と呼ばれる弟は孤独の中にいる。

物語とは言え、弟の周囲の「冷たさ」に胸が痛んで
どうも先を読み進められぬ。


メジロの鳴き声を真似する「小鳥のおじさん」の行き着く先を確かめられないまま
本は机に置かれたままである。


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               作者は「博士の愛した数式」を書いた人だと後で気づいた。



ラムちゃんが追放になった話 [本]

節分が近づいている。


「オニは~そと~♪」


なんだか「うる星やつら」を思い出したのでそのことを。


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1980年代に少年サンデーで連載されたこの漫画、
弟たちや父も大好きで実家にはたくさんのコミックスがあった。
もちろん私もおもしろがってよく読んだ。
夫も大好きで、借りてきてそのまま数年。


幼かった娘が本棚の中から引っ張りだし、
絵本感覚で読み始めた。
まだ保育園の時代。


幼児の語学習得力はまことにすさまじい。


ぎゃははははと笑い、何でも「×××だっちゃー。」と主人公のラムちゃん言葉を使い、
「ちゅどーん。」と家の中を駆け回る。


漫画に使われるコトバが頻繁に飛び交うようになると
さすがにこれは……と
「うる星やつら」のコミックスは娘から取り上げた。



今にして思えば
心配するほどのことではないのだろうけれど
当時は娘の言葉遣いをちょっと心配しちゃったのだ。


夫は「焚書坑儒だ。」と言い、
娘は今でも「うる星やつら」はちょっとうしろめたい気持ちで読むらしい。


しかし、私は今も昔も「うる星やつら」が好きである。
あのスピード感、ギャグセンス、ばかばかしさ、そしてほんわかするやりとり。
最近は読んでなかったが、年末にWOWOWでアニメが放映されていたのを見たら
また読みたくなってきた。


節分にはオニ族のラムちゃんは仲間と壮絶な戦いを繰り広げる。
読んでいてもスカッとして
本当に冬の間にこもった邪気を払ってしまいそうであった。


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私の知らない「別府」~「絵はがきの別府」 [本]

私の知らない「別府」と言っても
知らないことの方が多すぎるんですけれど。


今、読んでいるのが「絵はがきの別府」。
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ずいぶん前に購入して
夫はすでに読んでしまったのですが、
私はやっと手にしたところです。

早く読めばよかったというのが素直な感想。
興味深い本です。


古城俊秀氏の絵はがきコレクション6万点の中から
別府をテーマにした絵はがき600点が紹介されています。


最初の方から「そうだったの!?」と驚く内容ばかり。


北浜のハーバー辺りは砂浜で、天然砂湯があったのですねえ。
今の公園のあたりだと聞きましたが。
そういえば、ハーバーでは時折ぷくぷくと泡が上がっているのを見かけます。

私が好んで撮る高崎山の風景も絵はがきとなっています。

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また、こんな記事もありました。

「……伊予などから小型の和船が数多くやってきた。これらは「湯治船」と呼ばれ春の季語にもなっている。……湯治船に乗り組んで別府にやってくる人たちは陸の温泉街にはあがらず、船で自炊しながら寝泊まりして共同温泉浴場に通ったという。」


思わずにんまり。
我が家のヨットなどはまさに「湯治船」になっております。


ちょっと街歩きするだけでも興味深い別府ですが、
時空を遡って街歩きする楽しさも味わえます。


すばらしいコレクションと
丁寧な研究の成果が見事に溶け合った一冊だと思います。


ヨットの中でこの本を読みながらのんびりしたい……と思いつつも
雑用に追われる毎日が続いています。


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枕元にある本……積ん読とはよく言った! [本]

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紅葉はもう始まっていますか?
いろいろな秋を楽しまれていることでしょう。


……しかし、どうして枕元は片付かないんだ!!
と言いつつ、この頃、私もその一因を担っております。読書の秋ですからね。


二人分の本が枕元にどんどん積まれております。
さて、どんな本があるかというと……。


ますは私の分。

『ヨット百科』……最近ちょっとわかるようになりました。あちこちめくって、忘れないようにしています。

『とりぱん15』とりのなん子……漫画です。鳥の話題がたっぷりのエッセイみたいな漫画。癒やし系。

『八月の光』 朽木祥……ヨットが出てくる『風の靴』の作者の作品。
                読み上げたけど、じっくり読み直したい作品なのでそのままおいてます。

『小暮写真館』上下 宮部みゆき……まだ手つかず。

『劉備くん08春』白井恵理子……漫画です。このシリーズは疲れたときの癒やし漫画。あほらしくて好き。
                     活字がきついときの睡眠導入剤。

職場の机の上には『銀の匙』『秋の牢獄』『オンザライン』などが控えております。


夫の分

『炭水化物が人類を滅ぼす』夏井睦……これを読んだ後、夫は体重が確かに減りました。
                          が、全面信用はしてません。

『幕末の大奥』畑 尚子……夫が天璋院に興味を持っていたとは。これは、私も読んだ。興味深いですよ。

『宇宙は本当にひとつなのか』村山斉……オススメ。大変おもしろいそうです。

『大庄屋走る 小倉藩・村役人の日記』……おもしろいらしいです。

『オイラーの贈物 人類の至宝eのiπ乗=-1を学ぶ』吉田武……なかなか楽しいらしいです。

『大人の樹木学』石井誠治……実生の桜を育てた、意外とこだわり派の夫が「おもしろい。」と言ってます。


                            ……なんといいますか、てんでばらばら。積ん読の上に乱読。


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とは言え、この頃はすぐに寝ちゃいます。疲れてます。
でも、おもしろい本があったら教えてください。



読んだ本は本棚に戻しましょう。





待ち時間はミステリーを [本]

先週、娘の友達の結婚式だった。
会場に送り込むと時間がぽかり。
着物を着せたから、帰りまで待っていなくてはならない。


まずは、結婚式のあったホテルのレストランでランチをとることに。
そこからの風景。ヨット日和だよね。でも、風は冷たそう。

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ゆっくり食事をしてもまだ時間はあるので、
海の見える公園へ。


      私は、朝から「さよならドビュッシー」というミステリーを読んでいる。
      不幸な事故に見舞われる主人公の「語り」にけっこう引き込まれている。
      だから、車から動かない。



夫はカメラを抱えて出ていく。

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        ミステリーは佳境に入る。
        主人公の奏でるピアノ……それがストーリーを盛り上げる
        果たして主人公は、ピアノが弾けるのか。
        実は、このあたりで犯人の予想はついていた。
        しかし、どのように収束するのか……。
        久々におもしろいミステリー。



夫が帰ってきて西大分あたりに移動することにする。
西大分港の駐車場に車をとめる。
また、夫はカメラとともに出ていく。


        私は、ミステリーから離れられない。
        ピアノコンクールが終わる。
        いよいよ犯人が明かされる。


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        待ち時間の終わりとともにミステリーも終了。
        犯人は……やっぱり。
        しかし、うまくだまされたな。うーん、おもしろかった。



お天気で気持ちのよい休日。
夫の写真を見ながら、車から一歩も出なかったことをちょっとだけ後悔した。



「風の靴」 [本]

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ふとした折に
こんな文章が目に留まった。つい、最近のこと。


       ……

      「シート、ひけ!」
      湾の入り口のテトラポッドに近づくと、風間ジョーが、明るい声で指示を出した。
      湾を抜けたら、エンジンを切って、帆を上げるのだ。

      (中略)

      悪い風はみんな、風の神に袋に詰められたような朝だった。
      アイオロスはみごとに風をつかんで走っていた。まるで風の靴になったように。
      風の靴は、軽々と海を駆けていった。
      ずっと駆けていった。


      ……


あれ、これ、ヨットの話だ。
そのあとも、「スキッパー」や「クルー」、「コックピット」などの言葉が出てくる。
読みたいと思ったのは、
“THE WHY OF THE WIND”という詩の一節に惹かれたので。

朽木祥という作家の「風の靴」という作品。

早速Amazonに注文して取り寄せた。
明るい海を駆けるヨットの表紙絵。
クルーザーとディンギーが描かれた扉。
そして、A級ディンギーとクルーザーの用語解説。
……児童文学には珍しいんじゃないかなあ……。


少年少女向けにこんな作品もあったのだと
久々にワクワクしながら読んだ。

(ヨットのカタカナ用語がふんだんに出てきて、
 ヨット初心者の私は、状況がわかるとうれしくなってしまうのだ。)

ほんの三日間だけの地味な話だけれど、
一気に読み終わると、みずみずしい感動が残って、
ハーバーに戻ってきたときのような心地よさがあった。

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あとがきに
「最後のページを閉じたら、海に出かけて行きたくなるような、
 あふれる光のなかに駆けだしていきたくなるような、
 そんな物語を書きたいと、ずっと考えていました。」
とある。
海とセーリングが大好きな人が書いた優しい物語。


海とセーリングが大好きな大人にもオススメの一冊。

       
暖かな陽射しの中で
ヨットが走り出すときの水音を想像すると
もう、海に行きたくてしかたがない。