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せつなくて読めない 「ことり」小川洋子 [本]

この前の日曜日、夫を待つ間に書店で買った文庫本。

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この時期 鳥ブログになってしまう私としては
タイトルに惹かれたのであろう。


人間の言葉は話せないけれど、小鳥のさえずりを理解する兄と、
兄の言葉を唯一わかる弟。
ひっそりと静かな物語だが、その世界にどんどん引き込まれていった。


こんな場面があった。
兄と弟の会話である。

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「今日、ツグミがきたよ」
「じゃあ、もう冬だ」
「うん」
「枝にリンゴ、刺しておいたの?」
「でもツグミはリンゴを食べない」
「どうして?」
「遠慮して」
「へえ」
「先にヒヨドリがいたから」
「仲が悪いの?」
「ヒヨドリは賑やかで、頭がボサボサして、腕白だ。
 ツグミは圧倒されて、地面で土を掘り返してた」
「喧嘩はしないんだね」
「しない。土の中の虫を探すだけ。いじけてもいないし、めそめそもしていない。
 ただ遠慮しているだけ」
「へえ、そうなのか……」
「でも、ヒヨドリがこぼしたリンゴの屑は食べるよ」

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……どこでも同じ鳥の風景なんだな。作者もリンゴを庭に置いてるんだろうな。




わが家の庭で
この場面のツグミの役を担っているのがシロハラだ。
ヒヨドリのいないときをねらって遠慮がちにやってくる。


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道路沿いのツツジの植え込みの下に長い時間じっとしていることもある。

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最近ツグミは畑の中をよく歩いているが、
やはりリンゴを食べには来ない。



……さて、物語では兄が逝き、「小鳥のおじさん」と呼ばれる弟は孤独の中にいる。

物語とは言え、弟の周囲の「冷たさ」に胸が痛んで
どうも先を読み進められぬ。


メジロの鳴き声を真似する「小鳥のおじさん」の行き着く先を確かめられないまま
本は机に置かれたままである。


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               作者は「博士の愛した数式」を書いた人だと後で気づいた。