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お臼様の物語③ [ふるさと]

この辺りでは、阿蘇溶結凝灰岩を「灰石」という。
どこにでもあるから、石段、石橋、石臼、石碑に墓石……と様々なものに利用されてきた。
阿蘇の大噴火、大火砕流の賜である。

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石臼を産した地域の大理石は、阿蘇とは関係なく変成されたものであろう。
灰石に比べて、この石は柔らかく細工がしやすいと古い町誌に書いてあった。


そう、大理石の臼はデリケートなのである。
それなのに……。

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……あるとき、夫が知り合いから「臼を貸してほしい。」と頼まれた。
大分市であるイベントに臼の出張要請があったわけだ。

快く貸し出したのだが、臼が返されてきたとき大変なことになっていた。


臼の縁に傷がたくさんついて、細かな欠損があまた見られた。
つるつるで美しく角を落としていた縁が、がさがさ状態になっていたのだ。

どうしてこんな状態になったかは容易に想像がつく。
重たい臼の移動に手を抜いたのだ。
臼をひっくり返して
縁を下にして、回しながら移動させたのであろう。
コンクリートみたいな固い場所で。
使った方々にしてみれば、そのくらいのこと……と思ったかもしれない。


でも、傷ついた臼を見たときの夫の両親の嘆きは大きかった。


いつもは売り言葉に買い言葉で、
口を開けばケンカが絶えなかった二人が、
二人そろって泣いているのである。

ぽろぽろぽろぽろ涙をこぼし、
鼻水をすすっている。
臼は財産のない二人の原点であったのだから……。


夫の怒りはすさまじく
「二度と貸さん!!!」

……これ以降、臼は門外不出となり、
私は心の中で「お臼様」と呼ぶことに決めた。

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当時は若くて、「あらまあ、そろって泣いてるわ……。」くらいに思っていた私だが、
この記事を書いていると不覚にも涙がこぼれてしまった。
今の私ならよくわかる。


……昨年末のハーバーでの餅つき大会では、
久々にお臼様が我が家を出た。
お迎えにあたっては、明るい笑顔の屈強な海の男が三人も来てくださったので、
義母としては安心して送り出したようだ。
たくさんの人を久々に喜ばせ、臼も本望であったろう。
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「我が家の家宝」は「石臼」である。
……こんな家宝があってもいいんじゃないかな。



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